(don't get any) Big Ideas

音楽周りのあれこれかれこれ

THE 1975 @SUMMER SONIC 2019 OSAKA

僕は使命感から筆をとっている。THE 1975がもたらしたものは僕の感情をズタズタのめちゃくちゃにし、今をもって完全には帰ってこれてはいないが、書き記さずにはいられない。こんなことを思ったのは2016年のRadiohead以来。偶然なのか天の思し召しか、あの時のサマーソニックでは彼らの裏でトリを飾っていたTHE 1975が、見違えるような圧倒的なスケールを携えてサマーソニック2019の地に帰ってきた。

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ROCK & ROLL

IS

DEAD

GOD BLESS

THE 1975

最終盤に大映しにされたこのステートメントの通り、悲痛な叫びも高らかな幸福感も含めて彼らのロックンロールを一つ残らず全て出し尽くし、大阪の地に埋葬したTHE 1975に最大限の敬意を示したい。分析的に書くのはいつだって蛇足だし、僕らそれぞれに去来した気持ちさえ残っていればこんな文章は必要ない。しかし、彼らの勇気への感謝と敬意として、この文章をネットの海に埋葬させてほしい。

前置きが長くなった。ただただ「愛やん」としか言いようのない、Weezerのアツくもほんわかとしたパフォーマンスの余韻が残る舞洲会場オーシャンステージ、18:05。でかでかと表示された冒頭の〈Go Down〉だけで鳥肌が立つ“The 1975 (A Brief Inquiry Into Online Relationships)”のSEに迎えられて、いよいよTHE 1975が登場だ。

 

“Give Yourself a Try”のどこか近未来の雰囲気が漂うギターリフ(ソニックステージのSEで何度も聞いたThe Nationalの“You Had Your Soul with You”とも通じる)に引っ張られて、初っ端からオーシャンは高まっていく。僕はただただ手を振り上げサビのフレーズを合唱する。これから始まるのは彼らと僕らの小さな挑戦なんだ。胸は高鳴るばかり。

TOOTIMETOOTIMETOOTIMETOOTIMETOOTIMETOOTIME…“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”。本当にリリース当初から何回この言葉を口にしたかわからないほど聴いてきたこの曲だ。生で体感したら自然と顔もくしゃっとする。この曲をはじめとしたTHE 1975の楽曲をよくプレイして、大阪のバイブスを引き上げてくれたクラブイベント、GROOVERBritish Pavilion、そこで一緒に遊んだ面々にも感謝だ(ここで一緒に観ていたいつメンの2人にも)。

2ndからの“She's American”の高揚感も、TOOTIMEに引っ張り上げられて倍増。もはや彼らはZEDDと並べてもいいくらいハッピーなパーティーバンドだ。センキューセンキュー。そしておなじみのピカチュウみたいな帽子をかぶったマッティ(ちょっとズレてるのもかわいらしい)。“Sincerely Is Scary”では曲の世界観を最大限に表現した荘厳なステージセットとともに、程よい抜け感のあるジャジーなバンドサウンドが展開される。“It's Not Living (If It's Not With You)”の必殺リフもそうなのだが、90sロックに魅了されてきた僕らの胸を撃ち抜く、どこか郷愁を感じさせるサウンドを、そのまま2018−19年の時代感にのせてくるのがTHE 1975サウンドの恐るべきところだ。こんなもん、もうただただ歓喜。B'zファンと思しき人の「かっこいい…」という声も聞こえてくる。

 

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うなだれた様子でタバコをふかすマッティは、先日のドバイの一件について語る(知らない人はググってみてほしい。このライブの思い出に一つ違った視点が増えることと思う)。その後の“I Like America & America Likes Me”は間違いなくこの日のハイライトのひとつ。悲痛な想いをそのままに〈頼むから聞いてくれないか〉という孤独と、〈強い意志で一緒に声を上げるんだ〉という勇気に僕は涙で前がうまく見えなくなる(というか今も書きながらうるっとしてる)。ダイレクトにぶつかってくる内面の吐露が表現者の本質だとしたら、マッティはもはや名だたるロックスターの域に達したと言ってもいいだろう。

DJプレイにも通じるタイトなビートメイクが光る“Somebody Else”にしたって、単なる楽しいとか切ないを越えて「誰か」を想像させる表現力を持っている最新系のTHE 1975。“Champagne Supernova” דCreep”なんてぶち上げてみても全く大げさではない大アンセム“I Always Wanna Die (Sometimes)”では、しばしば僕らを塗りつぶしてしまう「いつだって死にたい」なんて感情をマッティと通じ合わせる、数万人の僕、俺、私たち。なんと美しい光景だろうか。

そして、この場で最も響いたのが“Love It If We Made It”だ。混迷を極める世の中だが、僕がここでItに投影したのはサマーソニックの姿。地蔵やら運営の不手際やら悪い情報が飛び交う中で僕の気持ちは若干暗くなっていたサマソニ期間中だったが、強い気持ちで拳を突き上げながら歌うマッティの姿に僕は強く胸を打たれる。曲に絡めて自説を展開するのもどうかと思うが、この時の僕がいち参加者=サマーソニックを作る一人として、ただこの場に集う全員が幸福であらんことをと願ったのは事実だ。

最終盤に入り初期のポップチューン“Chocolate”、“Sex”が立て続けにドロップされる。正直な話をするとリリース当時はチャラいアイドルバンドくらいに思っていた(その印象を完全には払拭しないのが彼らのすごいところでもあるが)これらの曲が、悲しみや怒りを出し切った先のロックンロールとして飛び込んできたのは僕にとってとてつもない衝撃だった。初期から支えてきたファンの感慨は僕の比ではないだろう。悲喜こもごも漂うオーシャンステージはここでピークに達する。そして上述のステートメント。最高だよ。THE 1975最高だよ。

最後は代表曲の“The Sound”。ここまできたらもう遠慮はいらない。近くにいたB'z勢も巻き込んでイチ、ニ、FUCKIN' JUMP!!!! もうパリピな僕もロックおじさんな僕も部屋で鬱屈としてる僕も全部この場に投影した最高に幸せな時間。そしてそれはここに集ったみんなを見てもわかる。〈君がそばにくれば胸の鼓動の音ですぐにわかる〉なんてチャラいフレーズも、ここではずっとずっと大きな意味を響かせている。ただただこの空間を共有する喜びを噛み締め、THE 1975は花火のような一瞬の儚い衝撃として過ぎ去っていった。1時間?10分くらいに感じた人は僕だけではないだろう。それほど濃密な時間だった。

 

ところで、“The Sound”ではいくつものメッセージがスクリーンにフラッシュされていた(おそらく歌詞とは違う)。全く思い出せないが、あそこに書かれていたのは必ずしも希望の言葉だけではなかったように思う。しかし、この地で全身全霊のロックンロールを体現した彼らと過ごした思い出があれば、僕らの明日はオールライトだ。GOD BLESS, THE 1975。ありがとう!!