(don't get any) Big Ideas

音楽周りのあれこれかれこれ

RADIOHEAD@Summer Sonic 2016 大阪 東京(8/20,21)

遅ればせながらSummer Sonic 2016 大阪 東京(8/20,21)のRADIOHEADの感想をまとめてみようかと。

結論から言ってしまうと今回のライブはとにかく凄まじかった。他の方が口々に「細かいことを挙げるまでもなくただただ圧巻のパフォーマンスだった」と言っているのを目にしたけど、まったくもってその通り。僕も分析的に色々考えるのは蛇足だろうなと思ってはいるけど、やはり観た人の想像力を刺激し色々な感情を喚起させるのがRADIOHEAD。うまい具合にまとめるのは他の方に任せるとして、今回は色々と突っ込んで書いてみる。長いよ。ごめんよ。

 

 『A Moon Shaped Pool』ってどういう作品?

前置きをもう少し。4年振りの来日、13年振りのサマソニというのもあって「あの曲やるのかな!」みたいな盛り上がり方が目立っていたけど、忘れてはならないのがこのライブは5月にリリースされた最新作『A Moon Shaped Pool』のツアーであること。そして、形式上は最新作ツアーを名乗りつつも最新作はほどほどに過去のヒットメドレーをするバンドとは違い、彼らのセットリストは最新作が核となったものであること。これはサマソニ前までのツアーセトリを見てもわかる。

さてさて『A Moon Shaped Pool』はどういうアルバムだったのか。正直に告白してしまうと、僕個人としては幾分か予習不足だったのもあって「アンビエントで美しい、でもいまいち捉えどころのないアルバム」という印象だった。ただ、無機質で非人間的な音源がフィジカルな躍動感ある表現に昇華された『Kid A』しかりスタジオワークとライブワークを繰り返す試行錯誤の中出来上がった大傑作『In Rainbows』しかり、彼らの音楽はスタジオ音源とライブが揃ってこそ真価を発揮するもの。どんな変化があるだろうかとわくわくしながら当日を迎えた。

 

8/20 大阪編〜現在進行形のRADIOHEAD

はやく本編入れよという声が聞こえてきそうだけどいよいよ本編。8/20大阪舞洲会場オーシャンステージ。時刻は19:15頃。サウンドチェックが押していたのもあり、各所で「まだか!まだなのか!」と言わんばかりの声が湧き上がり、異様な緊張感が漂う中ついにRADIOHEADが登場!

緊張感そのままになだれ込むように始まったのは"Burn The Witch"。『A Moon Shaped Pool』のオープニングトラックだ。この曲の大胆なストリングスアレンジがバンド編成だとどうなるのか?というのは誰もが注目する所だけど、そこは流石のRADIOHEAD。ギターギャンギャンに決めてきた。浮遊感のある入りから、BメロのSing a song on the jukebox that goes(ここ合唱にならないの僕はちょっと不思議)で鳴り響くギター、そしてBurrrrrrn the wiiiiiiiiiiitchで一気に緊張感がパーンと弾けた時の鼓動の高鳴りといったら。改めて彼らは緻密な作品づくりが凄いだけではない、生粋のライブバンドなのだと確信。

ここから"Ful Stop"までの5曲は『A Moon Shaped Pool』から。この曲順は今ツアーを通してほぼすべてそうなのだけど、彼らの「どうだ!これが最新の俺達だ!ついてこれるか!」とでも言わんばかりの気迫が感じられた。おそらく今作を聴いて「あんまロックじゃねえな」と感じていた人は多いことであろう。しかし音源ではなりを潜めていたグルーヴ感や曲全体のダイナミズムが存分に発揮された演奏を観て、「これが現在進行形の彼らのロックか!」とゾクゾク。

新作から存分に披露した後(Ful Stopで切るのは洒落なのかなんなのか)は"2+2=5"。あの怪しげなイントロから徐々に高まっていく熱気がBecause!!で弾ける。You have not been paying attention! paying attention! paying attention! ジリジリ高めてパーンと爆発するのは"Creep"から続く彼らの技だけど、それが一番端的に示されているのがこの曲。会場の熱気は急上昇!

そしてまさかまさかの"Airbag"。いやイントロカッコよすぎだろ。かつて時代を貫いた重厚なギターアンサンブルは今現在もなお鳴り響いている。おお、これがRADIOHEADだ。続いて"Reckoner"。"No Surprises"や"Let Down"のような美メロが光る曲だけど、今までのリズム的冒険を踏まえたビートが核となる曲。こういう曲にのれるというのも変だけど何とものれる。美しい曲の流れが続く中で満を持して"Pyramid Song"。この曲はあえて何かを言う必要もない。ただただ美しい。全体を貫く一見不規則なリズムピアノから醸し出される荘厳な雰囲気が会場を包む。ああ、美しい。

今回の一番の驚きは"Bloom"をはじめとする前作『The King Of Limbs』からの曲の変貌具合。おそらく彼らのキャリアで一番とっつきづらくてよくわからんアルバムだけど、ライブでの爆発力、大化け具合は『Kid A』並みかそれ以上。彼らも前回のツアーを経て完全に身体に馴染んだのか、これでもかと叩きつけてくる音、音、音。なんだよあのジョニーのドラム。

流れはそのままに再び『A Moon Shaped Pool』から"Identikit""The Numbers"。音源で聴いていた限り抑揚があまりないノッペリした曲が多い印象だったけど、やはりライブで観るとジリジリ盛り上げていくダイナミズムがよく感じられる。ジョニーのギターが入るところの「満を持して来た」って感じの重みが単純なオルタナロック的「静→動」の構成とも違っていて面白い。

そして再び『The King Of Limbs』から"Feral"。音源ではそれほど意識しなかったことだけど、本作のリズムは複雑過ぎる。意味がわからない。のろうとしたら逆にのれないわけがわからんビートを刻んでいる。しかしながらその複雑怪奇なビートに身体を委ねていると不思議と身体が動く。本当に意味がわからない。そしてリズムの怪奇さといったら次の"Arppegi/Wired Fishes"も引けを取らない。何種類ものパターンの違うアルペジオから浮かび上がってくるビート。こんなビートの刻み方あるんかよ。

そして今回のハイライトと言ってもいい"Everything In Its Right Place"からの"Idioteque"。"Everything〜"といえば『Kid A』以降のRADIOHEADのライブにおいて最も重要な曲。かつては10分近い時間をかけて会場を染め上げていた彼らの真骨頂と言ってもいい曲だけど、今回は強引にも"Idioteque"への助走として使うという贅沢さ!ジリジリと高められてきた温度が"Idioteque"へと昇華された時のある意味爽やかな気分は忘れられない。それからは彼らのお家芸に身を任せるだけ。

興奮冷めやらぬ中本編の締めは"There There"。いや、このタイミングでステージ前方にタムが用意された時点で多分そうなんだろなとは思ったのだけど、やっぱこの曲はゾクゾクするね。『Kid A』『Amnesiac』を経てロックへの回帰を鳴らした曲(この曲のリフが超カッコいいのは意外と話題にならない)だけど、それでも「単純に回帰なんてするかよ」というダイナミックな曲。ドラムのフィルを中心に全体でリズムを刻む様は壮観です。最高の流れだ…

 

本編が終わってひと段落。しばらくして再登場したトムはアコギを持っていたので「このタイミングでアコギってなんだ?」と少し困惑していた中で始まったのは"Exit Music"。ここでこれかよ。なんてものを持ってくるんだ。しめやかに始まったアンコールですが、この曲が内包している熱量は彼らの楽曲の中でも随一。この流れはニクイぞRADIOHEAD

会場が張り詰めたエモーションに包まれたところであのキレのいいイントロが鳴り響く。"Bodysnatchers"だ。この曲もリフがカッコいい曲(というかよく弾きながら歌えんな)だけど、"There There"同様単純なギターロックとは言いがたい。ここで鳴らされているのは最新のギターロックのかたちなのだと改めて感じました。It is the 21st century!

次の"Separator"もまた衝撃的。ここで?アンコールのこのタイミングで?イントロが聞こえてきた時当惑したのは僕だけではないだろう。しかし一番ストレートにのれたのは他でもないこの曲。正直『The King Of Limbs』舐めてましたすいませんでした。

 心地よくなったところで待ってました"The National Anthem"!今回のもう1つのハイライトと言っていいだろう。ここぞとばかりにコリンのベースが唸りまくる。触れてなかったけど、今回のライブはステージライティングもとんでもなかった。前作のツアーからやっていたReptilia/The StrokesのPVみたいな分割画面に個々のメンバーが映される手法なのだけど、そこに曲毎に様々な色のイメージがビジュアライズ。この曲では鮮烈な赤の向こうにメンバーが映しだされ、もうほんとトリップしてしまいそうな気分。しかしこの切り札とも言える曲をアンコール最終盤に持ってくるのもニクイ。

そして再びアコギを持ち出し"Karma Police"。やっぱこの曲の叙情的な美しさに代わるものはない。ほろほろしながら合唱。名残惜しい。本当に名残惜しい。

 

2時間以上観たのにまだまだ物足りない圧巻のパフォーマンス。全体を通して見ても新作をベースとしつつ今までのディスコグラフィをそのステージまで引き上げ緻密に配置した完璧な構成だったと思う。帰りに例のシャトルバス事件に巻き込まれたり色々あったけどそんなことでは色褪せない素敵な体験をありがとう。

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(画像は拾い物で失礼)

 

 おぼろげながらかたちが見えてきた『A Moon Shaped Pool』

9時頃に起床し大阪から新幹線で東京に向かう。その過程で『A Moon Shaped Pool』を4周ほどじっくり聴いて思ったのだけど、僕は、僕らは、このアルバムを誤解していたのではないか。トムのソロ2枚目『Tomorrow's Modern Boxes』でもそうなのだが、どうもパッと聴いた印象での驚きが欠けていたように思っていた。RADIOHEADといえばいつだって音楽を極限まで追求した革新的なサウンドを用意してくるものなのだけど、今作はそういう意味では肩透かしを食らったというか「あれ?」って思っていた。それは正しかったのか?いや、まったくの間違いだった。前日のライブを経て聞こえてくる音は全く違うものだった。後で改めて実感することなのだが、いささか地味にも聴こえた本作は現在の彼らから世界への回答なのだ。東京への期待は否が応にも高まる。

 

8/21 東京編〜過去と現在の交錯〜

幕張会場マリンステージ。前日同様15分ほど押してはじまるRADIOHEAD(そもそもサカナクションの大掛かりなステージからあの時間でセットし直すのは無理な話では…)。しかしやはり"Burn The Witch" のはじまりは凄い。「え?はじまってんの?」と言ってしまいそうな緩やかになだれ込んでくる音楽を認識した頃には完全にRADIOHEADの空間に包み込まれているのだ。続く"Daydreaming"は一見ライブ2曲目としては静かすぎる曲にも思える。しかしこの曲も"Pyramid Song"や"Exit Music"のように内在されているパワーがある。会場を静かに緩やかに、それでも確実に温めるパワーがある。今思うとこの配置はかなり絶妙だ。

さらに 不穏な美しさが会場を包む"Decks Dark"、トラディッショナルな雰囲気漂う"Desert Island Disk"と続く。ここら辺はアンビエントな感触をバンド編成で創り出す最新の彼らのスタイルが遺憾なく現れている。余談だが、今回のツアーTシャツではdifferent types of love(Desert Island Disk)、why should I be good if you're not?(Ful Stop)、the future is inside us(The Numbers)と、彼らにしては珍しく歌詞を前面にフィーチャーしたデザインとなっていてびっくり。どれほど彼らの意向が入ってるのかはわからないが、歌詞に目を向けてくれという意志の表れであろうか?彼らの思惑通りかここらへんの言葉はトムが歌うのに合わせて口をついて出てきたものだ。

それにしても"Ful Stop"はタフな曲。ピリピリとした緊張感を極限まで張り詰めさせてから続く"2+2=5"の後半で一気に爆発させる大掛かりなスタイルには脱帽するしかない。それはそうと相当なレア曲のはずの"Airbag"をやってくれるのはやはり驚き。 田中宗一郎氏(the sign magazine)も言ってたけどRADIOHEADがそれだけ日本のことを特別に思ってくれてるという事実にとても嬉しくなる。続く "Reckoner"もある種ハイライトと言っていいかもしれない。途中パーカッションが止まった時の本当に時間が止まったような感覚は忘れられない。

そしてまさかの"No Surprises"RADIOHEADの美メロ曲といえばこの曲というほどの超有名曲なだけあって、会場もセンチメンタルな雰囲気に包まれ思い思いのシンガロング。もうとっくのとうに思ってるけど、改めてこの場にいられてよかったなあと思った。

さらにジョニーのドラムが荒々しい意味不明曲"Bloom"に続いて小気味いいビートが鳴り響く"Identikit"、ピアノとバンドが絡み合う"The Numbers"。やはり『A Moon Shaped Pool』からの曲で気になるのはストリングスパートをどう置き換えていくのかというところなだけど、"The Numbers"の後半のピアノとストリングスの掛け合い部分がギターに置き換えられていたのは、ぴったりはまりすぎてて爆笑してしまった笑 しかし一方でこれは引き算の美学というのだろうか。例えば後から思えばちょうどこのライブ当日リリースされたFrank Oceanの『Blonde』にも通ずるチルでアンビエントな感じ。彼らはそこにクラシカルなモチーフも取り入れ荘厳さを醸し出している。自分達の音楽を貫きつつも敏感に現行のトレンドに呼応する姿勢は流石だ。

そして『Hail To The Thief』からトムのフェイバリット(?)"The Gloaming"。アルバムの中では比較的地味な曲だけど、ライブでとっても輝く曲。前日の"Separator"もだけど、過去作からの曲はその当時タイムリーに響いた曲よりはキャリアを通して普遍的に響く曲が選ばれている感じがするのが印象的。お次はRADIOHEAD的キラーチューン"The National Anthem"。前日書いたから割愛するけど、この曲のテンションはヤバすぎるでしょ笑

続いてトムダンスが有名な"Lotus Flower"。前回のツアーよりも音圧抑えめで全体の流れに馴染むような音だったように思う。その分緊張感をつくって迎えたのは"Everything In Its Right Place"。待ってました。この流れはしばらく彼ら最大の武器になるのではないだろうか。この曲からの元祖トムダンス "Idioteque"での爆発力は凄い。セットリスト中の各所に見られる、何曲も使って会場の雰囲気を作っていくやり方は熟練の技を感じさせる。テンションを上げきったところで本編終了。

 

さて前日は"Exit Music"をここぞというタイミングで披露したアンコール1曲目。何から始まるのかと期待は高まりまくる中、聞こえてきたのはあのギターフレーズ。"Let Down"。冷静に観たいなーと思っていたがさすがに堪えきれずボロボロに噎び泣きながらシンガロング。センチメンタルになるなと言われても無理ってもんですわ。わりとグダグダした演奏だったけどそんなの関係ない。最後のフレーズyou'll know where you areが胸に沁みる。

そんなめちゃくちゃセンチメンタルになった流れで『A Moon Shaped Pool』から"Present Tense"。"True Love Waits"を別としたら新作で随一の美しいメロディを持つ曲なのでここで聴けてよかった。ジョニーちょっとうるせえなと思ったけどそこもご愛嬌。 エドやコリンのパーカッションも一見「いる意味あんの?」って感じなんだけど、あれのおかげで曲の広がりが生まれるんだよね。

お次は貫禄の"Nude"。コリンのベースやっぱカッコいい。RADIOHEADの中でも屈指の印象的な歌詞(don't get any big ideas they're not gonna happen / you'll go to hell for what your dirty mind is thinking)を持つこの曲だけど、シンガロングになるでもなくただただ聴き入っていた。

そしてここからはあまりよく覚えていない。アルペジオのイントロが鳴った時は一瞬"My Iron Lung"に聞こえて(それはそれで聴きたかったけど) 反応が遅れたのだけど、ついにきました"Creep"。会場が一番待ち望んでいたであろうこの曲が鳴り出してからはもう本当に現実なのか疑わしくなるような異様な雰囲気に包まれていた。シンガロングといえばDon't Look Back In Anger / Oasis(ピースフル!)やSeven Nation Army / The White Stripes(あのリフ合唱するの超楽しい)が印象的だったのだけど、この曲のシンガロングはどの曲とも全く違うかなり異様なもの。ピースフルとか幸せとか楽しいとかテンション上がるとか、そういう感じではなく、会場にいる誰もがこの曲に投影している自己像をトムのボーカルに、ジョニーのギターに、それぞれぶつけていた、そんなシンガロングだった。この経験はもう一生できないかもしれない。貴重な体験だったなあ。

 しかし一番の驚きは次の"Bodysnatchers"。正直"Creep"に関してはおそらくやるだろうと思っていたけど、やるなら最後だろうと思っていたので、まだ続きそうな雰囲気とトムが持ち出したSGを見て「まさか!まさか!!」と当惑しっぱなし。そしてあのイントロ。この瞬間の歓声はこの日一番だったのではないだろうか。僕は全身が脱力して腰を抜かしそうになってしまいっていた。そこからはまさに夢心地。なんてバンドなんだRADIOHEAD。"Creep"で終わってれば大団円でもなんだか予定調和な感じがあったのだけどそうはしない。流石だよ。

そして本当の締めは"Street Spirit"。2日通して『The Bends』からの唯一の選曲。この曲がはじまった瞬間誰もがこれが最後だと思ったのではないだろうか。"Karma Police"締めも最高だけど、思えば彼らのキャリアを通して『The Bends』の最後を飾るこの曲ほど最後に相応しい曲はない(他のアルバム最終曲は中盤でやるかまったく披露されていない)。この日の思い出を噛み締めるように魂を彼らへの愛で満たしながらしみじみと聴いていた。


演奏が終わった後、会場に花火が上がり堂々のフィナーレ!時間が微妙だったので写真を撮ってる人を横目にそそくさと会場を抜けたけど、去り際に耳をかすめたSEのStarman / David Bowieがとても印象深かったなあ。

多少チグハグしてたけど会場の雰囲気に合わせて柔軟に編成したセットリスト、もはや特別な曲ではなくなった"Creep"、そこに彼らから僕らへの愛を感じると同時に、本当に長い間活動してきたバンドなんだとしみじみ思ったよ。ありがとうRADIOHEAD

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つまるところ『A Moon Shaped Pool』とは

今回は過去の曲もかなりやったけど、やはり核となっていたのは『A Moon Shaped Pool』。正直いってしまうとまだ全貌がつかめた感じがしない。それは例えば何年後かにあるであろう次作のリリース時にやっと答え合わせができるような、そんな感じなのかもしれない。ただ、そんな中でもおぼろげながら感じたのだが、今回のアルバムはRADIOHEAD史上初めて、起承転結でいうところの「結」といえるアルバムだったんじゃないだろうか。きっと前回までのツアーで同じように過去の曲を沢山やっても今回よりずっとチグハグしていたことだと思う。

過去に立ち返ろうという意志は、例えば「ジュークボックスに合わせて歌え(Burn The Witch)」「もう僕に飽きたならどうぞ楽しい時間を(Decks Dark)」「僕を戻してくれ(Ful Stop)」等、歌詞の中にもなかば皮肉めいた表現であらわされているように思う(和訳は日本盤 中村明美氏)。皮肉、正直過去の曲をやり過ぎるのは革新を続けてきた彼らを観るにあたって必ずしも嬉しいことばかりではなかったりもする。

でも今回のライブは粉川しの氏(ロッキンオン)も言っていたように『Kid A』以降とかそんな区切りがなくなった、キャリアすべてを包括したライブだったように思える。それができたのはやはり『A Moon Shaped Pool』がさりげなくも確実にキャリア全体を包み込んだ快作だったからと言えるだろう。

 そういう意味で、今回のライブは『A Moon Shaped Pool』の意義を世界に問いかける極めて大きな実験の場だったともいえる。それはもしかしたら必ずしも身を結んではいないかもしれない。RADIOHEADのファン層はなかなか特殊で、死ぬほど好きな人ととりあえず聴いている人の比率が他のバンドと大きく違うような気がして、今回はフェスなことも相まってとりあえず聴いてる層が大好き層を越えてくる過渡期だったといえる(Twitterで「これだけ熱狂しても誰とも感情を共有しないところが稀有なところでありそれ故に世界中で愛されてる」みたいに書いたけど、単純にノリが違ったという部分も否定できない)。

それは少し寂しい事実ではあるけど、僕を含め多くのファンにはちゃんと届いたはず。彼らもそれはわかってるんじゃないだろうか。そういうのも織り込み済みで「今現在のRADIOHEAD」はこういう感じなんだと僕らも彼らも納得できた場だったかと思う。むしろ今回もとんでもなかったのに次の機会がどういうものになるのか楽しみで仕方がない笑 あ、個々人としてのライブ体験を否定したいのではないのでご安心を。これあんま言及したくなかったけど思ってる人絶対一定数いるから一応。

まあ「結」とは言ったものの彼らがこれからどこに向かっていくのかは誰にもわからない。もしかしたらこれは新たな「起」なのかもしれない。今後の彼らに思いを馳せつつ、この文章の締めといたしましょう。

 

大阪と東京

少し追記。2日間を通してかたちの違ったセットリストを披露してくれたRADIOHEAD。大阪のみ観た人の「Creep聴きたかったー!」という声をかなり聞いたけど、大阪が劣ったものかといったら全然そんなことはなく、むしろ完成度で言えば大阪のほうが上だったと思うのでご安心を。というか悔しさがあるのはそれでいいと思う。両会場行った僕ですら「あれも聴きたかった!」って曲は挙げだしたらキリがないし、「大満足だった!これで十分!」ってなってもつまらないでしょ?

 この悔しさは彼らから僕達への最後のプレゼントなのだと思う。こんだけセトリ変えるのを追っかけて世界中周ってもいいし、また来る時に思いを馳せてもいいし、どうするかはit's up to you。彼らはそういうことが言いたいんだと思う。だから何年後かにまた会場で会おうぜ。楽しみにしてる!では!